「私は余りピンク系は好きではないんですよ」
と、裕子さんが補足的に説明を加えた。ここで、私はふと思いついた。
上着系には確かにピンク色は無かったが、下着系ならあるのではないか。私は失礼を承知で、
「でもピンク色の下着をお持ちではありませんか? 調べてみましたか?」
と聞いてみた。裕子さんはあっさりと
「一応調べてみましたけど、指輪はありませんでした」
と答えてくれた。教授はやや不機嫌そうな口調で補足した。
「おいおい、桃果のヒントの中に『ヒトが身に着ける物ではない』ってあっただろ。だから、衣類の中には隠していないはずだぞ」
しまった、私はそのことを失念していた。桃果ちゃんが更に追い討ちをかけてくる。
「そうだよ。服の中には隠ちてないよ。サトチさん、頭わるい」
そこまではっきり言わなくても……
桃果ちゃんの部屋の本棚には、確かに推理小説が多数並んでいた。講談社青い鳥文庫から発刊されているシャーロック・ホームズものの短編や、講談社ミステリーランドのシリーズは全作品揃っているようだ。これらは全てふりがな付きなので、漢字をよく知らなくても読み進めることは不可能ではない。しかし、子ども向けの発刊物に混じって、明らかに異質な作品が本棚に並んでいたのだ。蘇部健一の『六枚のとんかつ』『動かぬ証拠』(いずれも講談社文庫版)である。特に『六枚のとんかつ』は私も好きな短編集なので、質問してみた。
「桃果ちゃん、『六枚のとんかつ』を読むんだ。これ全部読んだの? 漢字は読めるの?」
「全部読んだよ。『六とん』は難しい漢字が少ないから大丈夫だよ」
「いやあ、4歳なのにそれでも凄いと思うよ。で、『六とん』の中で好きな話は何?」
「四国が出てくる話は傑作だね。あと、一番最初の話も下らなくて好きだよ」
おお、この感覚は将来有望である。私は桃果ちゃんの両親にも聞いてみた。
「桃果ちゃんの本は、お二人もお読みになっているのですか」
裕子さんが答えてくれた。
「いいえ、私たちは余り推理小説が好きではないので、中身は全く読みません。桃果が欲しいと言う本を買い与えているだけなのですが、自然に漢字を覚えてくれるので助かります」
ほほう。ということは、桃果ちゃんが「オナニー連盟」(文庫版『六枚のとんかつ』所収)という作品を読了したことを両親は知らないということか。
さて、ここまでの観察と会話から、私は指輪の隠し場所について自分なりの結論を得た。おそらく間違いないと思う。最後に、桃果ちゃんからの特別ヒントを記録して、問題編を締めることにしよう。
「今日、サトチさんが観察した物の中に、指輪の隠ち場所がちゃんとあります。モモ色だよ。あと、サトチさんと私の会話の中にも大事なヒントがあると思います。あと、私は同じ年の他の子よりも賢いけど(←自分で言うな)、あくまでも4歳児であることを忘れない方がいいと思うよ」
『解はモモ色・問題編』 終わり