解はモモ色

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§3 2階の部屋という手がかり

2階のウォーク・イン・クローゼット
階段を登り切ったところにあるドアは、一見して普通の部屋の入り口だが、中は衣装置き場になっている。床は普通のフローリング。掛かっている衣装はかなり多い。多くは奥さんの裕子さんの服であろう。教授のものと思われるスーツも混じっている。これだけたくさん服があれば、一着くらいはピンク系があっても良さそうなものだが、全く見当たらない。

「私は余りピンク系は好きではないんですよ」
と、裕子さんが補足的に説明を加えた。ここで、私はふと思いついた。 上着系には確かにピンク色は無かったが、下着系ならあるのではないか。私は失礼を承知で、
「でもピンク色の下着をお持ちではありませんか? 調べてみましたか?」
と聞いてみた。裕子さんはあっさりと
「一応調べてみましたけど、指輪はありませんでした」
と答えてくれた。教授はやや不機嫌そうな口調で補足した。
「おいおい、桃果のヒントの中に『ヒトが身に着ける物ではない』ってあっただろ。だから、衣類の中には隠していないはずだぞ」
しまった、私はそのことを失念していた。桃果ちゃんが更に追い討ちをかけてくる。
「そうだよ。服の中には隠ちてないよ。サトチさん、頭わるい」
そこまではっきり言わなくても……

2階の教授夫婦の寝室
カーテンやカーペットの色は水色系。クローゼットは木目調。ダブルベッドはスチールフレーム付きの欧風な豪華デザイン(オランダ製とのこと)で、寝具類は白で統一されている。ベッド脇の小さな大理石製のサイドテーブルの上に、興味を引くものがあった。白地に黒の大き目の斑模様の毛皮で覆われたデザインの電気スタンドの脇に、ピンク色のフォトフレームがあったのだ。桃色の枠の所々にルビーと思われる宝石が散りばめられている。写真立てにしては高価に違いない。中の写真には、教授夫婦と桃果ちゃんが、草を食べている1頭の乳牛を背景に写っている。今年の夏に、北海道で農場を経営する親戚宅に行った際に撮影したのだそうだ。裕子さんいわく、「もちろん、その写真立てはかなり慎重に調べてみましたよ。でも指輪はありませんでした」
2階の桃果ちゃんの部屋
これまでの部屋には桃色の要素は少なかったが、桃果ちゃんの部屋には桃色のものがたくさんあった。桃色尽くしと言う方が相応しいであろう。カーテン、ベッドの寝具、クローゼット、カーペットは全て淡いピンクである。もちろん、これらは教授夫婦が全て詳しく調べて、指輪が隠されていないことを確認済みだそうだ。勉強机と本棚はピンクではなく木目調だった。
 

 桃果ちゃんの部屋の本棚には、確かに推理小説が多数並んでいた。講談社青い鳥文庫から発刊されているシャーロック・ホームズものの短編や、講談社ミステリーランドのシリーズは全作品揃っているようだ。これらは全てふりがな付きなので、漢字をよく知らなくても読み進めることは不可能ではない。しかし、子ども向けの発刊物に混じって、明らかに異質な作品が本棚に並んでいたのだ。蘇部健一の『六枚のとんかつ』『動かぬ証拠』(いずれも講談社文庫版)である。特に『六枚のとんかつ』は私も好きな短編集なので、質問してみた。
「桃果ちゃん、『六枚のとんかつ』を読むんだ。これ全部読んだの? 漢字は読めるの?」
「全部読んだよ。『六とん』は難しい漢字が少ないから大丈夫だよ」
「いやあ、4歳なのにそれでも凄いと思うよ。で、『六とん』の中で好きな話は何?」
「四国が出てくる話は傑作だね。あと、一番最初の話も下らなくて好きだよ」
おお、この感覚は将来有望である。私は桃果ちゃんの両親にも聞いてみた。
「桃果ちゃんの本は、お二人もお読みになっているのですか」
裕子さんが答えてくれた。
「いいえ、私たちは余り推理小説が好きではないので、中身は全く読みません。桃果が欲しいと言う本を買い与えているだけなのですが、自然に漢字を覚えてくれるので助かります」
ほほう。ということは、桃果ちゃんが「オナニー連盟」(文庫版『六枚のとんかつ』所収)という作品を読了したことを両親は知らないということか。

 さて、ここまでの観察と会話から、私は指輪の隠し場所について自分なりの結論を得た。おそらく間違いないと思う。最後に、桃果ちゃんからの特別ヒントを記録して、問題編を締めることにしよう。
「今日、サトチさんが観察した物の中に、指輪の隠ち場所がちゃんとあります。モモ色だよ。あと、サトチさんと私の会話の中にも大事なヒントがあると思います。あと、私は同じ年の他の子よりも賢いけど(←自分で言うな)、あくまでも4歳児であることを忘れない方がいいと思うよ」

『解はモモ色・問題編』 終わり

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