筒井康隆作品リスト

『富豪刑事』『ロートレック荘事件』


『富豪刑事』(新潮文庫)

 筒井康隆(1934〜)は言わずと知れた大衆小説界の人気作家。純粋なミステリと呼べる作品も2つだけ書いています。そのうちの一つが1978年に書かれた『富豪刑事』。今年(2005年)、ドラマ化されました。私はドラマを見ていないのですが(見る時間などないです)、ドラマ化を記念して読んでおこうと思ったのです。

 4中篇からなる連作長編小説。主人公の神戸大助という刑事は桁外れの大富豪。何しろ、身代金500万を要求する誘拐犯に対して「子どもひとりの命が500万円とは、人名軽視も甚だしい」と思ってしまうほどの金銭感覚。この富豪刑事が、並外れた財力を利用して事件を解決していきます。筒井氏の文章のテンポの良さは、この話にとても良く合っています。主人公を取り巻く人々のキャラクタも良く描けていて楽しい。メタミステリ的な面白さもあります。個人的には、ミステリ的な伏線の張り方に不満があるので少々減点しましたが、全体的には、筒井康隆の魅力が良く発揮された作品だと思います。


『ロートレック荘事件』(新潮文庫)

 筒井康隆氏の多数の著作の中で、純粋なミステリに分類されるのは『富豪刑事』と『ロートレック荘事件』(1990年)だけだと思います。前者はどちらかというとユーモアミステリですが、『ロートレック荘事件』はトリック重視の本格ミステリです。本作で用いられた大トリックは、恐らく日本ミステリ史上に残り続けるでしょう。

 しかし、私自身は率直に言って本作全体を楽しめませんでした。理由は真相が明らかにされたあと「何故そう考えられるか」を明らかにする“解決場面”が非常に読みにくく感じられたからです。

 とは言え、中盤は結構良かったと思います。先へ先へと読ませる筆力はさすがですし、ロートレックの絵画のカラー画像が挟み込まれている装丁も楽しめました。