まさに日本のエラリー・クイーン(コリン・デクスターかも)と呼べる作風。

法月綸太郎作品リスト(随時追加します)
『頼子のために』  『法月綸太郎の新冒険』

『頼子のために』
講談社文庫
私的満足度 7(満点は10)
本格味と事件そのものの迫力は満点。
悩める名探偵・法月綸太郎をどう評価する?

 「頼子が死んだ。頼子は私たちの一人娘だった」で始まる西村悠史の手記は、西村が独力で犯人を見つけて殺害し、自殺を図ったところで終わっている。この手記の内容に疑問を抱いた探偵・法月綸太郎が調査に乗り出し、驚愕の真相が明らかになる。

 1990年に発表された法月綸太郎の長編第4作。真相への手がかり+論理的解明、という本格推理小説の必要条件は満たしています。加えて、事件の全貌は衝撃的とくれば、大傑作の予感もするのですが、個人的にはそこまでは高評価できないのです。

 その理由は、一言で言うと文章の読みにくさなのですが、この読みにくさは文章力の問題というよりは探偵・法月綸太郎の個性に起因しているような気がします。快刀乱麻に事件を斬りまくるようなタイプではなく、的外れな推理を経て試行錯誤しながら真相に近づいていくので、もどかしく感じられてならないのです。まさに悩める名探偵。作者の法月氏ご本人も色々と悩んでいらっしゃるようですが。文庫本解説で「ハードボイルドに徹した方がいい」という注文を付けられているわけですが、こんな作家は他にはいないような気がします。逆に言うと、そのような作風が好きな人には大傑作ではないかと思います(コリン・デクスター好きにはいいかも)。

 ところで、作中に登場する法月綸太郎とその父親の法月警視の関係は、まさにエラリー・クイーン作品の探偵エラリー・クイーンと父親の関係そのものです。そう言えば、エラリー・クイーンの長編も結構文章が読みにくかったような記憶があります。

 珍しく否定的な意見を多く述べてしまいましたが、それでも満足度は7点。決して低くはありません。冒頭に書いたとおり、扱われる事件そのものの迫力は満点だからです。実際、後発の某有名作家の某作品は、明らかに本作の影響を強く受けています。「パクリ」とまでは言えませんが。

 あと、『頼子のために』というタイトルは凄いと思います。

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『法月綸太郎の新冒険』
講談社文庫
私的満足度 5(満点は10)
短編でありながらも純粋パズラーたらんとする意欲作。

 作家と同名で警察官の父親を持つという、エラリー・クイーンと同設定の探偵、法月綸太郎ものの中短編5作+αを集めた作品集。やはりエラリー・クイーン同様、紙数に制約があったとしても読者に対してフェアなパズラーであることを目指していることに好感が持てます。ただ、中には必ずしも成功していない作品もある(法月氏ご本人があとがきで認めている)のが少々残念です。また、錯綜する綸太郎の推理過程に紙幅が費やされているのについていけるかどうかが評価の分かれ目になるかも知れません。

 集中の個人的お気に入りは「世界の神秘を解く男」です。

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