個人的には今ひとつ肌に合わないのですが、当代一の人気作家です。

宮部みゆき作品リスト(随時追加します)
『火車』 『蒲生邸事件』 『心とろかすような』

『火車』
新潮文庫
私的満足度 3(満点は10)
これは名作です! なぜなら私以外の多くの人が絶賛しているから(溜息)。
他の追随を許さない精密な人物描写を極めた代表作の1つ。

 休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

 以上、文庫の裏から引用しました。さて、感想を書くに当たり、困ったことが1つ。それは、私自身がこの作品を全く面白いと思えなかったことです。
 私にとって初めて読んだ宮部作品でした。当代一の人気作家である宮部みゆきを1つは読んでおこうと思ったこと、Webでの評判を見る限り『火車』を最高作に推す声が異様に多かったことが、この本を手に取った動機だったのです。期待が大きかっただけに、落胆もより一層強まった感があります。こんな私が普通の感想を書いてもおそらくどなたの参考にもならないでしょうから、普段と趣向を変えて、「本作が何故これほど多くの人に支持されているのか」について、Web上での様々な絶賛感想文を参考にしながら、以下にまとめてみます。

理由その1:いわゆる『カード破産』の問題が書かれている
 現代的なテーマであるのが良い。追い詰められて、徹底的に存在を消そうとする某登場人物の人生が心に残る。等々

理由その2:某登場人物の消息を追う際のサスペンス満点の描写

理由その3:細かい人物描写
 追う側の人間の家族関係が極めて精密に書かれていて、彼らの行動や発言一つ一つが心に迫ってくる。等々…

 先程も述べたとおり、以上3つは私の意見ではありません。私個人としては、理由その1については確かに作者の目の付け所の独創性を感じます。その2について、確かにサスペンス性には優れていますが、それだけなら他の作家の先行作品にいくらでもあると思います。
 おそらく最も重要なのは理由3ではないかと。この点をどう評価するかで、宮部作品が肌に合うか合わないかが決まるのではないでしょうか。確かに宮部の人物描写は精密です。個人的にこの精密さに共感できないのです。なぜなら、普段の生活で、私は他人のことをこんなに細かく見ていないですから、描写がくどいと感じてしまうのでしょう。とは言え、このような意見がweb上で極めて少数(皆無ではないですが)であることを考えると、きっと私は標準からかなり外れた感性の持ち主なのでしょう(泣)。

 最後に、この作品から学んだことを1つ。他人に書物を勧めるときは、絶賛しない方が良い。できれば書物そのものを勧めないほうが、読者に先入観を与えないためにはbestなのでしょうが、それだとこのコンテンツの存在意義がなくなるわけで…

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『蒲生邸事件』
文春文庫
私的満足度 8(満点は10)
エンターテイメントに徹した宮部流SFの佳作。純粋な感動。

 大学受験のために上京した受験生・尾崎貴史がホテルの火災に巻き込まれ命を落とす寸前に、居合わせた特殊能力(時間移動)をもつ男に連れられ、1936年の2月26日にタイム・スリップする。この日は、いわゆる「二・二六事件」の日。尾崎は退役した蒲生大将の元に身を寄せ、更に蒲生邸でも事件は起こる。

 宮部みゆきの小説の細部の構成は先行者の作品とかなり似通っていることが多いと思います。構成の類似であり、内容は全く別物なので、“パクリ”ではないことはもちろんです。本作の後半も、影響を受けたであろう小説を容易に指摘することができます。火車にも類似の構成の先行作品はあります(結末の着地はかなり異なりますが)。そのような類似にも関わらず、彼女独特の“宮部節”のようなものは確かに存在し、それが多くの読者を惹きつけるのではないでしょうか。
 『蒲生邸事件』の後半、ラスト近くはまさに“宮部節”全開で、私は素直に泣かされました。というか、初読時の感動、という点では今まで読んだ小説の中でトップクラスです。前半では、特殊能力を持つ男に関する設定(数々の代償を払わねばならないことなど)がうまいと思いました。

 冒頭に「事件は起こる」と書いたものの、本作はミステリではないと考えたほうが良いでしょう。ミステリとしては大した謎が登場しないからです。日本SF大賞を受賞したことからも判るとおり、純粋なエンターテイメント作品として考えると、かなり楽しめるのではないでしょうか。前半で少年の家族の描写が相変わらず精密すぎて(そこがいいという人もいるのでしょうね)共感できないことや、現在の大学受験情勢の取材不足(日本史で現代史がほとんど出題されない、ということはない)が気になりましたが、それを考慮しても、今まで読んだ(といっても少数ですが)宮部作品の中では個人的bestです。

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『心とろかすような』
創元推理文庫
私的満足度 7(満点は10)
宮部作品が肌に合わない人にも、短編ならばお勧めできます。

 探偵犬マサを主人公とした短編集。宮部初の長編『パーフェクト・ブルー』(創元推理文庫/未読)の続編。マサのキャラクタの作り方は見事だし、飼い主である探偵事務所の面々も、皆好感が持てる人物ばかり。この辺りが、宮部みゆきが多数の人に支持される理由なんでしょうね。本作は短編集だけに、宮部特有の執拗な人物描写は適度な長さに感じられて気になりませんでした。集中でのお気に入りは表題作「心とろかすような」です。可愛らしい小学校高学年女子が登場。これで主人公が犬と来れば、まさに『子役と動物には勝てぬ』を地で行く作品か。
 宮部好きの方ならば、キャラクタの描写に紙数を費やした「マサ、留守番をする」を絶賛するかも知れません。Webでの評判を見ると、『某キャラクタが泣かせる』という理由での高評価が多いようです。

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