元々SF畑の人ですが、ミステリ作家としても非凡で、
少なからぬ作品が高評価を得ています。

山田正紀作品リスト(随時追加します)
『ブラックスワン』 『僧正の積木歌』

『ブラックスワン』
ハルキ文庫
私的満足度 8(満点は10)
巧さと読み易さと青春のほろ苦さを全て兼ね備えた秀作
著者自らが認めるミステリとしての代表作

 著者の山田正紀(まさき)は1950年生まれ。1974年に『神狩り』で作家デビューし、それ以降、主にSFの作品を数多く書き、現在に至るのですが、その膨大な作品群の中で、いくつかのミステリ作品があります。それはいずれも1987年(綾辻行人のデビュー年)以降に書かれたもので、その中には2001年の日本推理作家協会大賞を受賞した『ミステリ・オペラ』などの大作もあるのですが、代表作は、やはりこれから紹介する『ブラックスワン』ということになるでしょう。これは著者自らがインタビューの中で「最もすっきりしている」として名前を挙げているからです。

 実際、本作の特徴の1つに、最初の一文から最後に至るまで、極めて読みやすい、ということが挙げられます。描写に無駄がないのでしょうね。読み飛ばしたくなるような部分が全くありません。
 内容についてですが、あらすじには殆ど触れないことにします。これは、ネタばれになるからではなく、例えば文庫の裏表紙に書いてあるあらすじを読んでも余り面白そうには見えない(笑)からです。ところが、実際に読んでみると、ミステリとしての仕掛けの面白さと巧さは十分です。根本のトリックの見事さについては、折原一氏が文庫解説で賞賛しています(解説を読むのは後回しの方が良いかも)が、私からはいわゆる“交通機関を用いたアリバイ工作”の処理の見事さを指摘しておきます。著者自身が本文中で述べていますが、この種のトリックは現実の犯罪者によって用いられることはなく(だって時刻表を丹念に調べれば丸わかりなんだもん)その意味でリアリティに欠けるのですが、山田正紀は本作の中でこの種のアリバイ工作に必然性を持たせることに成功していると思うのです。

 そして、本作のもう一つの魅力は、“青春ミステリ”としても大成功を収めていることです。特に本作の場合、18年前に起こった事件を振り返り謎を解くという話であるだけに、若き日の煌めきへの郷愁や、過ぎ去った時間の重みなどが無駄のない切々とした筆致で描かれるのです。個人的にこの部分には感動しました。自身の若き日(ああ、もうこういうことを書く年齢になってしまったのか)と重ね合わせ、しばし感慨に耽ったのです。

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『僧正の積木歌』
文芸春秋社
私的満足度 4(満点は10)
ヴァン・ダインと横溝正史へのオマージュ

 そういう趣旨の作品。ファイロ・ヴァンスや金田一耕助も登場します。

 実は私が初めて読んだ“大人向けの”長編ミステリがヴァン・ダインの『僧正殺人事件』なのです。ポプラ社の子供向けの乱歩シリーズはそれ以前に読んでいましたが。本作は『僧正殺人事件』の続編とでもいうべき内容ということで、書店で衝動買いしました。『僧正殺人事件』の真犯人は別にいた、という設定。金田一耕助が活躍。反面、ファイロ・ヴァンスは少々情けない(?)役回り。中盤での謎の提示の仕方やサスペンス性が楽しめました。 しかしながら、全体的にはごちゃごちゃと様々な要素が詰め込まれているようで、正直、余り印象に残らなかったのでした。
 そういうわけで、この文章も某掲示板に私が書き込んだもののコピペで間に合わせたのでした。

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